悪質二種類ガン闘病記 ⑤     手術は・・?


 

止まってしまった電気メスはまだ動かない。沈黙の時間が過ぎていく。何の説明も無い。おそらく30分位経った頃、手術部位にヒリヒリするような痛みを覚えた。

「ちょっと痛いのですが。」

「はい、わかりました。」

そばに麻酔の先生が付いていてくれたらしい。すぐに痛みはなくなった。その時、電気メスが動き始めた。手術が再開されたようだ。何だったのだろう。不安が沸き起こったが、成す術は無し。今は「まな板の鯉」ならぬ「手術台の患者」ですから。又電気メスが動き始めたが、今度は先程削り採った患部の平ら面を更に削り採っているようだ。ちょっと手元が狂えば、5ミリ位アッという間に削り採ってしまいそうで、患者のくせにヒヤヒヤしていた。これが5分採っては20分休み、又5分採っては20分休みを何回か繰り返して、手に汗がびっしょりとなった頃

「間もなく終わります。お疲れ様でした。」池上先生の声。

 

手術がおわった後、又ストレッチャーに乗せられて手術ゾーンの出入りフロアーへ。そこでは元気看護師さんが待っていてくれた。

「長引いたので心配していたのですが、良い結果だと伺いました。」

彼女の内部情報によると、先生の感触は想像以上に良かったようです。ストレッチャーを押しながら、うれしそうに病室に向かうお元気さんの気持ちに、思わず突き上げてくるものを感じてしまった。

感激に浸っていたのも束の間の事で、病室に戻ってくると元気看護師さんの態度が一変して、

「かたりじさん、ベッドに移りましょうね。自分でできるでしょ。点滴と導尿管が繋がっているので気をつけて。」

ビシッと指示されてしまった。

「それから、明日の朝まではベッド上安静ですから、その様にして過ごして下さい。」

「はい」

私の返事は、か細く消え入りそうになっていた。

かくして、無事手術を終え、後は回復に努める事が私の仕事という事になった。程なく池上先生が姿を現し、経過説明をした後、診察となった。

「かたりじさん、手術の結果、当初の予想程悪い状態までは進行していませんでした。想定されたケースの内の、最も良い結果になる見通しです。まず始めに、突出していた患部は切除後直ちに細胞検査をし、ガンであるとの結果を得ました。ただし、これは完全に除去できました。次にその根元部分の膀胱壁にどこまでガンが入り込んでいるのか、が問題でした。これを少し除去してはその細胞を検査し、又少し除去しては細胞検査をし、この繰り返しの2度目まではガン細胞が確認できましたが、しかし3度目、4度目にはガン細胞を見つける事ができませんでした。すなわち、ガン細胞は膀胱壁の途中まで入り込んでいたが、突き抜けてはいなかったという事です。残り2㎜位しか残ってはいませんでしたが、当面他の臓器への転移は無いものと思われます。これは大変喜ばしい結果だと言えます。
ただし、経験的には”この状況で完治すると考えるのは早計だ”というのが病院としての基本的見解です。膀胱ガンはまだまだ未知の部分が多い、大変むつかしい病気だと言えます。”今回は第一関門は無事通過できた”位にお考え頂きたいのです。」

諸手を挙げて喜んではいられないという事か。・・・・・とは言っても少しはホッとしていたい感はある。まだ完治した訳ではないが、命の危険は少し遠のいたという事だ。取りあえず、しばらくは安心していても良いだろう。これからは、手術のダメージから早く回復する事に努めようと思う。

私 「先生、分かりました。気を緩めずにいます。退院した後は、タバコを完全に止めます。酒も止めます。健康的な生活を維持するよう努めます。」

池上先生「そうですね、そうして下さい。膀胱ガンの細胞は、眼に見えない状態で散らばって、潜伏している事が多いのです。従って、いつ又、再発するかも知れません。できるだけ健康な暮らしをして、病気を近づけない努力が必要です。」

私 「先生、今日は有難うございました。家内共々感謝しております。」

池上先生「それでは今日はゆっくりお休み下さい。これからの事は又相談しましょう。」

そのようにして先生は病室を出て行った。
正直な感想は「よかった、助かった」だった。ガンが膀胱壁から腹腔内部へ飛び散っていたらどうしよう、もしかしたら、命に関わる重大事態になっているのではないか、そんな恐ろしい想像が脳裏を駆け巡って、不安に怯えていたのは事実だ。そんな不安が全て杞憂だったというのは、大きな大きな贈り物を頂いたような、そんな気持だった。不安が遠ざかり、少しずつ平静が戻ってきた。本当に良かった。

「そう言えば、今日までずっと苦しめられてきた、あの不愉快なウズウズ感が無い」という事に気がついた。「体が軽い、いい気分だ。何と清々しい感覚だろう。長らく忘れていた、何も感じないという普通の感覚が、久しぶりに戻ってきている。そうだ、以前はこんな感じで暮らしていたのだったな。」思いが駆け巡っている内に、眠りに襲われてしまった。
(6に続く→16まで)

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