悪質二種類ガン闘病記 ⑥    抗ガン剤


手術の翌日には点滴も導尿管も外され、文字通り完全に自由な状態になった。食事や入浴、散歩全て制限無し。不快感も無し。そこで、病院内をゆっくりと歩き回ってみたら、結構大きくて広い施設だという事が分かった。外の敷地には小さいながらビオトープ(植物や動物、昆虫などの自然な状態を再現している公園)もある。路線バスやタクシーが敷地内の玄関そばまで導入されている。大きな建物、にぎやかと言える位大勢の患者さんや付添の人々、色々な診療科の職員さん達、外来ゾーンをのぞいてみたが、かなりの大病院だった。私もここを通って入院したのだが、全く記憶に無い。何も見えていなかったようだ。「そうとう緊張していたんだなあ」としみじみ思う。入院予定は一週間、さあ、気合いを入れて頑張ろう。手術後4日目。採血の後、造影剤点滴の全身CT検査。転移の有無を確認するためという事です。

 

手術後6日目。池上先生の回診です。

池上先生 「かたりじさん、順調に回復してきて良かったですね。いよいよ明日は退院ですが、ご相談があります。退院された後、2週間位経ったら再度入院して頂く追加治療を提案したいのです。今回の手術は見込み以上に大成功でした。今のところどこにも転移は見受けられません。只、以前から申し上げていましたように、膀胱ガンは実にしぶとい病気です。しつこく再発を繰り返す性質を持っています。その意味で、”できるだけの予防策を講じておきたい”というのが病院としての考えです。実は、追加の予防治療として、抗ガン剤を膀胱周辺の血管に注入するという方法があります。この治療をお受け頂ければと思います。」

退院目前で、又入院ですか。仕事の心配だってあるし、生活の事も考えなければならないし、きつい事をおっしゃる。

私 「先生、少し考えさせて頂けませんでしょうか。家内とも相談したいと思います。いろいろ考えなければならない事もありますので。」

池上先生 「勿論です。充分ご検討下さい。退院された後、1週間以内にご返事が頂ければと思います。」

診察が終わって、先生の姿が見えなくなったら直ちに妻に電話です。状況説明が終わると同時に

「すぐお受けして。」妻の即答が返ってきました。

生活を預かる身としては、いろいろ考える事もあるはずなのに、申し訳ない思いで一杯です。苦労ばかりかけてすまない。
元気看護師さんの定時巡回の時に、池上先生への返事をお願いして、この件は即決してしまった。

翌日、ナースステーションで退院の手続きを済ませ、会計での支払いが済んだら全て完了。退院は実にあっさりしたものだ。ドラマのように、関係者のお見送りを受けて、手を振りながら、というシーンは全く無かった。その足で1階の入院受付へ。2週間後の再入院受付を済ませ(先生からの手配は既に済んでいた)、さあ帰宅だ。

自宅での療養生活は気楽なものです。特段する事も無く、ぶらぶらと近所を散歩したり、気が向けば仕事関係の図面をのぞいてみたり、好き勝手な時間を過ごしていた。こんな怠惰な日々というものは瞬く間に過ぎて行くものです。何の準備も心構えも無いまま2週間が経ってしまった。

かって知ったる病院の入院受付へ。
4月20日の1回目入院から約3週間。今日は5月14日です。入院手続きを済ませ、前と同じ病棟5階のナースステーションで所定の手続きを済ませた頃、元気看護師さんが顔を見せました。

元気看護師 「かたりじさん、こんにちは。又、宜しくお願いしますね。」

相変わらず元気いっぱいで初々しい。
多少の懐かしさと不安な気持ちで落ち着かないまま待っていると、前回の時と同じくベテラン看護師の岩崎さんが現れました。入院説明他一式の確認が済んだ後、病室へ案内された。502号室です。

岩崎看護師 「かたりじさん、1時間くらい後に、明日の抗ガン剤治療について並木先生のご説明があります。その他入浴やお通じはご存知の通り、この前のやり方と同じです。朝10時からの予定ですが、朝食はありません。宜しいですか。それでは宜しくお願いします。」

テキパキと説明して、声をかける間もなく居なくなってしまった。
程なく現れた背の高い先生

「並木です、宜しくお願い致します。今日は、明日の治療に付いてご説明させて頂きます。かたりじさんが受けられる治療は、抗ガン剤を直接膀胱周辺の動脈血管に注入して、膀胱のガン組織にダメージを与えようとするものです。太もも根元の動脈血管からカテーテルを送り込み、膀胱の近くに達したところで、抗ガン剤を注入します。点滴による抗ガン剤注入と違って、直接患部の組織を狙いますので、効果が大きいのではないかと考えられています。これを2週間後にもう一度行います。合計2回です。まだ実施例が多くはありませんので、実験的な意味合いも含まれています。もし拒否されても、何の問題もありません。どうでしょう、宜しいでしょうか。」

問いかけながら当方の意思確認をしているその態度は、実に堂々として自信に満ちあふれていた。拒否する理由もありません。

「分かりました。心置きなく受けさせて頂きます。どうぞ宜しくお願い致します。」このような返事をして、明日の治療は確定した。

翌朝6時過ぎに目覚めたが、良い天気だ。まさに五月晴れそのものです。今日の治療は良い事のような気がしてきた。あまりに気持がよかったので、病院の中庭に出てみるとすでに先客が数人、思い思いに過ごしていた。それぞれ病を抱えて苦しんでいる筈なのに、皆さん穏やかな表情をしている。

10時になり、迎えのストレッチャーを引いて現れたのは初対面の看護師さんでした。それに、若い男性ドクターが二人ついている。「何だか物々しいな」と思いながらストレッチャーに乗せられ、この前と同じ手術室へ。ここでは、看護師は手術室の人と交代したが、若いドクターはそのまま私のそばに付いて一緒に中へ入った。

手術着に着替えさせられて、待機。手術室看護師と新手のドクターが現れて

「かたりじさん、これから始めます。まず、麻酔をしますので、背中を丸めて下さい。」

これはこの前と同じだ、要領は分かっている。手際よく下半身麻酔が効いてきた。今回はドクターが多いので、何かが違うとは思ったが、緊張感がただ事では無い感じです。明かりが弱くなり、始まるようです。一人のドクターがメスで、私の右足太ももに切り傷を作っているようだ。何かゴソゴソとしていたが、全ドクターが私からは見えないモニターに見入り始めた。おそらくカテーテルを挿入しているのだろう。
しばらくすると

「かたりじさん、薬を入れます。気分が悪いとか何かが有りましたら、すぐにおっしゃってください。遠慮はいりません。」

どのドクターかは分からないが、はっきりとした声が聞こえた。それから10分もしなかったと思いますが

「終わりました。お疲れ様です。」

との声と同時に太ももに堅い何かが当てがわれ、一人のドクターが両手で強く押しつけてきた。そして小さな声で

「傷口が固まるまで、我慢してくださいね。約1時間位掛かります。」

治療そのものは思ったよりも簡単に済んでホッとしていたのに、止血処置に1時間とは。動脈とはそんなにも扱いが難しい循環器という事なのか。ストレチャーのままの移動で壁際の邪魔にならない場所へ追いやられ、約1時間。傷口を押しているドクター、ご苦労さんです。
(7に続く→16まで)

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