悪質二種類ガン闘病記 ⑦    抗ガン剤パワー


抗ガン剤治療が終わって、病室に戻ったら妻が待っていた。

「元気そうで安心したわ。」

「うん、たいした事はなかった。」

何気ない会話だが、心の底からホッとした気分だ。そこへ元気看護師さん登場、

「かたりじさん、お疲れ様でした。今日はゆっくりして下さいね。」

そう言いながら、検温脈拍など所定のデータ採りをテキパキと進めていく。

「もうすぐお食事です、くつろいでお待ち下さい。今日は部屋食です。」

パソコンや検査器具の乗ったワゴンを押して次の病室へ忙しく出て行った。重症でない人は食堂で食事をする事になっているが、私は重症者グループらしい。12時になり同室の3人は食堂へ出て行ったが、私は配膳係待ちです。3人の配膳係が食事ボックス満載の、大きなワゴン車を押して廊下にやってきた。このワゴン車は保温及び冷蔵仕様になっていて、中の食事が暖かい物は暖かいまま、冷たい物は冷たいまま維持できるようになっている。配膳係は各室の重症者にそれぞれの名前を確認しながら配っていく。

502号室で「かたりじさん、お食事です」そう言って保温状態の箱形カバー付きお盆、とでもいうべき食事ボックスを私のベッドテーブルに置いていった。

あまり空腹感は無かったが、それでも時間通りの食事です。ボックスのフタ(箱状)を取って食べ始めようとした。そのとたん、たまらなくクサイ、いやな臭いに襲われて、箸がすくんでしまった。

そばに居た妻が「どうしたの?」と怪訝な顔で私を見つめています。

「急に食欲が無くなった。気分が悪い」そう言いながら私は箸を置いてしまった。

少しむかつき気味の悪寒も湧き上がってきた。とても食事どころではない、戻すかも知れない。そんな不安の中で腹をさすったり、深呼吸をしてみたり、悪銭苦闘してやっとの事で何とか落ち着きを取り戻した。

「いやー、気持ち悪かった。どうなるかと思った。」言葉を発した時には、額にびっしょり汗をかいていた。

「食事は無理だな。抗ガン剤をやると、気分が悪くなるとは聞いていたが、本当だったね。全く食事は無理だ。」

妻に向かって言いながら、ベッドに突っ伏してジッとしていた。その内、いつの間にか眠ってしまったらしく、目が覚めた時には日が暮れ始めていた。

「あれっ、もう夕方だ。ママ、帰らなきゃ! 信夫(息子)が帰ってきてしまう。」

実はそれ程急いでいる訳ではなかったのだが、慌てていたのか、思わず妻にそう言ってしまった。

「そうね、そろそろ帰るわ。もう大丈夫かしら。」

言いながら妻は帰り支度を始め、私の目を見て確認していた。その後妻が病室を後にしたので、私も入院患者らしく、ベッド上に座ってテレビを見たり、窓の外をのぞいてみたり、ゆっくりとした時間を過ごしていた。そうこうしている内に、夕食の時間になった。

すっかり回復していた私は、昼食のドタバタを忘れたかのように、夕方の食事を待っていました。夕食も重症者グループです。時間になって、配膳係が私の食事を持ってきた時には今日初めての食事であることを思い出して、何となくワクワクしていました。

「かたりじさん、お食事です」 声と共に食事ボックスが私のベッドテーブルにおかれた。

さあ頂こう。フタを開けてお膳を見回した。なかなか美味しそうだな、と思っていた時フッとかすかに、気持ち悪い臭いがしたような気がした。深く確かめもしないで、冷や奴を少しばかり口に入れた。「うぐっ!ぐっ」突然ものすごい不快感が襲ってきた。気持ち悪い!気持ち悪い!胃がどうにかなったか、揉まれるような、押しつけられるような、止める事ができないムカツキが込み上げてきた。とたんに、料理の全てが恐ろしくクサイ臭いを発し始めた。嘔吐物が一気に吹き出した。かろうじて手で押さえながら、慌てて病室の洗面台に駆け込んだが、地獄の状態になってしまった。

「ああ、やってしまった。」くやんでいるヒマは無い。同室の3人が戻ってくるまでに、何とかしなければ。

急いで洗面台をきれいにし、窓を全開にして空気を入れ換え、ナースコールで看護師さんを呼んで状況報告をし、ベッド周辺を整えた。看護師さんの適切な応援のお陰で、嘔吐の痕跡は完全に無くなり、同室の方々に迷惑をかける事もなく、気づかれる事もなく、無事一件落着となりました。

やはり、食事はまだ駄目でした。ムカツキがひどくて食べ物が喉を通りません。熱も出てきた。打ちのめされて、へこんでいると、看護師さんの報告を受けた当直の先生がやってきた。

「大分気持ちが悪かったようですね。その他に具合の悪いところはありませんか。何も無ければ、今日は食事をされていませんので点滴をしましょう。」

そう言って聴診器を当てたり、血圧、脈拍を測ったり事態を確認した後、病室を出ていきました。程なく、先程の看護師さんが来て、点滴です。その後、この出来事を妻に電話して一日は終わりましたが抗ガン剤が持つ裏側のパワーをその副作用から知らされた思いがして、なかなか寝付けなかった。
入院は3日間の予定ですので、明日は退院だ。
(8に続く→16まで)

ご意見を頂けませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です