煙草のない世界 ⑩ タバコ禁止反対勢力 三国同盟


 日本外務省での事務的調整会議から帰国後、ヒン国の金取得(キム・シュトク)は他の2人とは別行動をとっていた.。天空(テンクン)国際空港で食事休息を済ませたその足で、空港を出ることなく出国手続きを済ませ、モンゴル・チンギスハーン空港行きのゲートへ向かっていた。ウランバートルで東ヒン国の電子工業総局職員との打ち合わせが予定されていたのだが、この打ち合わせは秘密性を感じない位いつもの仕事であった。ここでは日本の東ヒン総連が支配する輸出企業と東ヒン国との橋渡し的な打ち合わせが日常的に行われており、時にはチャン国、香港の業者も加わることもある会合だった。金取得(キム・シュトク)はヒン国外務省の職員ではあるが、東ヒン総連との連携も重要な職務の一つである。東ヒン国の特命を受けた工作員が東ヒン総連の在日を隠れ蓑(みの)として、日本で繰り広げている各種物資の調達及び運び出しの闇業務。これを国際貿易の中に紛れ込ませる作業を専門的に行う一団が存在しており、その一団との連携を勤めているのも彼であった。ヒン国、東ヒン国、日本、この三者の関係は微妙に入り組んだ状態になっていて、ヒン国と東ヒン国は対日本での共通利益に関しては協力体制を組み、利害が反する場合は敵対する体制で臨む。そこに日本を利用する要素が入り込むと、複雑な動きの中で微妙な秘密や策略が形成される。様々な状況が幾重にも重なり、又は絡(から)まり、不可解で危険な空気が漂う不透明な協力関係を保つ。それらの活動拠点としてのみならず、本国の情報組織そのものとしての働きを行う東ヒン国の出先機関、総連。傘下(さんか)にある東ヒン学校では、教室の教壇上部壁面に掲(かか)げられた親子で並ぶ2枚の写真が、見張っているかのように眼下を睥睨(へいげい)している。全てが近寄り難い暴力的な性質を感じさせる不気味な集団。日本の情報機関も容易には入り込めない組織として異様な存在となっている。日本にありながら、外国公館でもない建物、国交も無く秘密の多い組織、それが東ヒン総連だ。

 

ウランバートル会合を遡(さかのぼ)ること約1年、東ヒン総連の5階会議室に金取得(キム・シュトク)の姿があった。在日チャン僑で池袋のボスと呼ばれる陳大人(チャン・タイジン)の顔も見える。他に数人のアジア系と思える男達が着席していた。この会議は極秘ミッションの実行作戦会議であって、秘密は絶対に漏らしてはならない、「日本中にタバコを浸透させる作戦会議」である。陳腐な議題のように思えるが、しかし、最近の国家戦略の課題としては重要な位置付けとされている。日本の国力を低下させるための手段として、喫煙率の上昇を煽(あお)り、継続させ、中毒患者を増加させる、それらの具体策を決めていくための会議である。覚醒剤など麻薬を持ち込んでの短期的な混乱作戦は、東ヒン国労働党委員長直轄のミッションとして経済絡(から)みの特命となるため、今日の会議より遥(はる)かに高度の別作戦となっている。今回の作戦は、チャン国の強い働きかけによって実現した、最新で悪質性の見えにくい、異質の国家衰退促進策であるが、対日策としては充分に共通利益をもたらすものとして、共同戦線を張ることになったのだった。ニコチンに支配された脳と、その脳に更に支配されて病気だらけでガタガタの身体(からだ)を抱えた国民。このようなコストの掛かる国民が増加することによって、少しずつ身を削られていく国家。1億3000万人近くの国民を擁する日本。この国の国力を低下させ、100年後には完全に支配下に置いてしまう目論見(もくろみ)を持つ国が、日常作業としての作戦に取り組み始めたのだ。20世紀までのように、武力と資源力で短期間に奪い取ってしまうという手法は、もはや通用しない時代になっていたのだが、領土の拡大に対する欲望は無くなってはいなかった。その上、日本はアメリカのみならずロシア、清国などの世界最強国を相手に戦いを挑んだ危険な国だ。常に目を光らせて見張っていなければ、歴史を繰り返す恐れがある。警戒を緩めず、逆に浸食していく位の対応をしておかなければならない要注意国。この共通認識の下、共同戦線を張る国々が集まって作戦を練っているのだ。

 

日本の内閣情報調査室では「近隣国のニコチン作戦」情報どころの騒ぎではなかった。首相が国有地売却に絡(から)んで、買い主の「モリヤマ某」に有利になるよう国土交通省に影響力を及ぼしたとか、首相夫人も怪しい関わり合いを持っていたとか、関西の私立大学が獣医学部を新設するにあたり学長の「カケガワ何某」に便宜を計ったとか、国会での野党からの嫌がらせ対応に忙殺されていた。国家の存亡に影響するであろう情報の分析も対応もそっちのけで、国力劣化に血道(ちみち)を上げる低俗野党への答弁対策に明け暮れていた。

 

 

警察庁警備局公安課ではいち早く、東ヒン総連で行われた「日本中にタバコを浸透させる作戦会議」の詳細を入手していた。ゼロ(警察庁の情報、諜報組織のコードネーム)でも同じく別ルートからの情報を手に入れていた。防衛省防衛政策局調査課は防衛省情報本部からの伝達でこの情報を把握していた。民間の諜報機関でも確認されていた。

 

東ヒン総連での近隣協力国会議で決した作戦が実行された結果、日本の国会はまとも  な議論  をする場ではなくなっていた。東ヒン総連会議の結果、日本の協力野党議員達にばらまかれた「ネタ」は充分な働きをした。低俗マスコミでも潜入させていた分子が有効に働いていた。日本は開けても暮れても「モリ・カケ問題」で盛り上がり、終わりが見えない様相の中でもがいているようだった。政府機能の一定部分が麻痺状態となってしまった日本だが、倫理観も国民主体の政策も持たない野党議員に加えて、与党の反執行部議員までもがウロチョロと利益団体の代理人活動に専念し始めてしまった。政府・内閣が弱気の姿勢を見せれば、すぐさま飛び掛かろうとの魂胆が透けて見える動きだ。政府としては、いつまでも「モリ・カケ」ばかりに関わっている場合ではないが、策は一つしかないように思われた。取りあえずは解散風を吹かせて与野党とも浮き足立たせ、「つつきあい国会」を静かにさせる。その後内閣改造で与党内の人心一新を計り、反対勢力を一掃してしまう。常套手段で乗り切るしかない.。

警察庁、防衛省のインテリジェンスは内閣情報調査室との連携がうまく執(と)れていないようだった。国家百年の計を憂うよりも、今日の混乱を収める事が先決重要事項となり、倫理の裏付けが無い内閣改造が実行された。

 

ご意見を頂けませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です