煙草のない世界 ⑪ 反日国 チャン、ヒン、東ヒン


2018年10月29日、明治神宮では高円宮家の絢子女王殿下と民間人の守谷慧氏の結婚式が行われていた。国中で笑顔が満ち溢(あふ)れて、人々は何となく温(あたた)かな気持ちになっていた。そんな国中のお祝いムードとは関わりなく、険しい表情の人達が集まっている場所がある。ここは朝鮮総連3階の特定会議室303号。日本社会を一定以上の混乱に陥(おとしい)れた功績で、ヒン国の金取得(キム・シュトク)、東ヒン国の李哲学(リ・チョルハク)が報奨金を与えられたのが5ヶ月前のことだった。今日はチャン国共産党外国調整室の管理官・王博文(ワン・ハクブン)の呼びかけで集められていたのだが、議題は主たる目的である「日本人の喫煙率向上」に関するテコ入れの要請であった。先般の作戦会議では、その執行予算としてチャン国から50億円が支払われていたのだが、半分の目的「政治混乱」は成功したものの、片方の目的「喫煙率向上」はむしろ低下していた。2017年の男性28.2%、女性9.0%と比較して2018年の男性27.8%、女性8.7%は、共に喫煙者が減少していることを示す数字である。今のところ王博文(ワン・ハクブン)の実績は半分勝利、半分負けということで処分の対象にはなっていないが、このまま放置することは許されない立場に立たされていた。彼自身は、命を賭けてでも目的を達成しなければならない危機感を抱いていた。

彼には16歳の一人娘、詩雨(シウ)がいるが、この子は現在東京のインターナショナルスクールに在学している。戦前から東京赤坂で床屋を営んでいた叔父一族が健在で、今ではその子供である従兄弟の良(リョウ)が理髪店を引き継いでいた。一人娘の詩雨(シウ)は13歳の時からこの従兄弟の家に寄宿して、スクールに通学している。妻の美鈴(ビレイ)が季節毎に娘の顔を見に来ていたが、その時は博文(ハクブン)も出来るだけスケジュールを調整して、家族3人水入らずの時を過ごすように努めていた。この家族には密かな夢があり、娘が日本のインターナショナルスクールを卒業する時には、全員でアメリカに移り住む望みを持っているのだ。妻と娘は3年前から従兄弟の家に住民票を確保しており、着実に日本に根を張っていた。来たるべき日に備えた準備を日本の法律に紛(まぎ)れて進めてきている。ここまで来られたのは全てチャン国人裏社会の根回しによる、絶対秘密の作業だった。王博文(ワン・ハクブン)自身はアメリカ・チャン僑組織の自由主義派と繋(つな)がりを付けてあり、ハワイの支部が受け入れ準備を進めてハワイ経由アメリカ本土入りという道筋を立てていた。

 

日本国内での喫煙者増加作戦が思うように進まなかった3国の関係機関としては、抜本策を講じなければならない状況を自覚し始めていた。単に担当者の努力不足で片付けられる問題ではない事は明らかであった。東ヒン国は一気に麻薬攻勢を主張したが、他の2国はそれには応じなかった。自国への影響を恐れたからだ。3国の日本攻略部署では少し読み違いをしていたのかも知れない。「日本人はタバコからは離れない」との前提を立てて作戦を遂行していったのだが、統計上の数字は逆を示して推移している。年々喫煙率は減少している上、女性・若年者の喫煙率を上げようと煽(あお)り立てる作戦を繰り広げてみたものの、大した効果は得られなかった。それは数字を見れば明らかだった。大幅に作戦変更を検討しなければならない、緊急事態を迎えている。日本では3国の思惑とは逆に健康な人々が増加しており、医療費の財政負担が減少に転じる恐れが出てきた。このままでは当初の目的が崩(くず)れていき、日本の国力が向上してしまう。これは絶対に阻止しなければ、命の危険にも及びかねない事態だった。

 

 

                          

2018年11月初旬、東ヒン総連3階特定会議室303号、王博文(ワン・ハクブン)、金取得(キム・シュトク)、李哲学(リ・チョルハク)、このいつもの3人の他に、東ヒン総連の応援部隊として選ばれた12人の潜入職員が同席している。総連の潜入職員とは、陰の存在であり、名前は偽名、役職は架空、仕事は秘密、すなわちその存在が誰にも知られていない秘密要員である。日本で知られている過去の仕事としては「日本人拉致」という任務があったが、その後の彼等の動きは不明である。今日の指令は王博文(ワン・ハクブン)によって全員に伝えられた。上部組織の命令系統は彼等の知るところではない。「チャン国人の命令に従え」とのみ伝えられていた。15人は3班に分かれて、王博文(ワン・ハクブン)、金取得(キム・シュトク)、李哲学(リ・チョルハク)が各4人ずつの秘密要員と組むという陣立てが命じられた。第1班は王博文(ワン・ハクブン)班長率いる日本たばこ産業株式会社及び政界浸透策、第2班は金取得(キム・シュトク)班長率いる煙草葉生産者及び加工業界浸透策、第3班は李哲学(リ・チョルハク)班長率いるマスコミ浸透策という戦術が実行されることになった。2020年のオリンピックまでを第1ピリオドとして、10年計画の正式指令が下された。 「日本人の喫煙者を増加させ、喫煙率を高めよ」

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