婆ちゃんと孫坊やの道徳 ②  小学校の組体操


コウ君のお兄ちゃんは小学5年生で、名前はタケシ君(剛志くん)です。5月の運動会に向けて、組体操の練習が始まったそうです。今日はお兄ちゃんも婆ちゃんのそばに来て、「ねえ婆ちゃん、学校の道徳の時間にみんなで話し合ったんだけど、意見が分かれてしまって結論が出なかったんだ」と話しかけた。

 

「くわしく話してちょうだい」婆ちゃんが優しく受け止めた。

 

 

お兄ちゃんは深呼吸をして、ゆっくりと話し始めた。

「道徳の議題は”組体操でのできごと”だったんだ。組体操でピラミッドを練習していた時に、頂上のツヨシ君があと一段で頂上というところまで登ったところで、突然ピラミッドが崩れていった。ツヨシ君は投げ出されて、床にころげ落ち、肩を打撲してしまった。もう運動会に出場するのは無理だった。原因は一番下の段のワタル君が、上の重みに耐えきれずにバランスを崩してしまったからだ。そして、ワタル君は崩れたピラミッドの下敷きになり、腕を骨折してしまった。頂上役のツヨシ君は ”下の段のワタル君が崩れたからいけない、運動会にも出られなくなった。絶対に許せない” と言っている。下の段のワタル君も ”ごめんなさい” と言っている」

婆ちゃんを見つめながら、お兄ちゃんは泣き出しそう顔をしていた。話は続く。

 

 

「この話を聞いた頂上役ツヨシ君のお母さんがツヨシ君に言ったそうだ。”あなたは怪我をしたし、運動会にも出場できなくなって、辛い思いをしているでしょう。でも下の段のワタル君はどう思っているか考えた?  多分、あなたに怪我を負わせたり、運動会に出場できなくさせてしまったり、あなたよりもっと辛い思いをしているんじゃないかな、きっと。あなたに申し訳なくて、どんなに謝(あやま)っても、許してもらえないと思って、泣いていると思うよ”。お母さんの話を聞いた頂上役のツヨシ君は、”下の段のワタル君は必死で頑張っていたんだ。けれども、耐えきれなくなって崩れてしまったんだ”という事に気がついた。そしてワタル君に電話しようと思って、受話器をとった。」  ここまで一気に話を続けて、お兄ちゃんは一息入れた。

                                                                                                                                                                                                                               「この後どう続ければいいかで、クラスの話し合いになったんだけど、”やっぱり崩れたワタル君の責任は重大だ” というグループと、”ワタル君も下の段で一生懸命に頑張ったんだから許してやるべきだ” というグループに意見が分かれてしまったんだ」お兄ちゃんは、みんなの意見が一つにまとまるものだと思っていたのに、とんでもない方向に分かれてしまって、頭が混乱していた。

 

 

 

婆ちゃんが口を開いた。「むつかしいね。いろいろな事を考えなければならない、大変な話だね。ところで、タケシ君はどう思うの?」

 

 

 

 

話を振り向けられたお兄ちゃんは「なんか違うような気がするんだけど!? 下の段のワタル君が悪いとか、許してあげるとか、そんな事じゃないような気がするんだ。」 話しながら婆ちゃんの顔を見て、さらに続けた。

「先生は頂上役のツヨシ君が下の段のワタル君に電話をして、”君のせいじゃないよ、気にしないで”と言って慰めたから、二人はその後も仲良くできた。これは相手の気持ちを考えた ”思いやりの心” だね。と説明していたんだけど、その話も何となく、ちょっと違うかなって気がするんだ」 お兄ちゃんのタケシ君は話し終わっても、その顔は”納得できない”と言っているようだった。

 

 

婆ちゃんが話し始めた。「タケシ君の話をちょっと整理してみようね。1番目は、ピラミッドの練習は学校の授業だという事。授業は”嫌いだから止めます”という事は許されない、みんなが参加しなければならない学校の役目だね。学校は子供が大人になるまでの間に、大人としての社会性や知識や健康や心を持てるように、教育をする場所だね。これは世界中の大人が、子供の将来を考えて造り出した、大変優れた考えです。何千年も前から世界中の国々に存在していたんだよ。子供が大人になった時には安定した社会の一員として、幸せに過ごせるようにと願う大人の知恵だね。いろいろな考えもあるのだけれど、基本的には”子供の幸せ”のための場所として、現代では多くの役割を担(にな)っているんだよ」、婆ちゃんが何で学校の話をし始めたのか、タケシ君もコウ君もさっぱり分からなかったけど、引き寄せられるように聞き入っていた。

 

 

「2番目は、学校の授業で組体操の練習をしていたら、下の段の生徒が上からの重みに耐えきれずに、バランスを崩してしまった。そして頂上役の生徒が転げ落ちて怪我をしてしまった」 。婆ちゃんはここで話しを切った。

そして、タケシ君とコウ君の顔をジッと見て続けた、「転げ落ちて怪我をした生徒はかわいそうだね。痛かっただろうね。”下の段の生徒がしっかりしていればこんな事にはならなかったのに”と思っただろうね。さてと、それでは崩れてしまった下の段の生徒はどう思ったかな。”重たい、重たい、無理だよ、でも頑張らなければピラミッドが崩れてしまう。う~ん、う~ん、重たい、重たい、手も足もしびれてきた、つぶされてしまう、助けて~、と心の中で叫びながら頑張り通して崩れ落ちてしまったんだよね。」婆ちゃんの話を聞いていたコウ君は、下の段のワタル君がかわいそうで、かわいそうで、泣き出しそうになっていました。お兄ちゃんのタケシ君も眼に涙を浮かべています。

 

 

 婆ちゃんは続けて話し出した、「さあ、クラスの半分の生徒は下の段のワタル君が悪かったという。残りの半分はそれを許してやれという。 では何が悪かったのですか? 頂上役のツヨシ君が怪我をしたのはワタル君の責任ですか? 骨折の重傷を負ったのは下の段のワタル君ですよ。・・・下の段のワタル君が悪かったとか、一生懸命頑張ったんだから許してあげるべきだとか、みんなの議論は変じゃないかな。先生の ”ツヨシ君がワタル君に電話をして君のせいじゃないと慰めたのは思いやり”という話も 婆ちゃんは納得がいきません。無理矢理、友情の美談を作り上げようとする一方的なコジツケにしか聞こえません。一番の重傷を負った上、辛い思いをしていたのは、下の段のワタル君でしょう。ワタル君にこんな危険な事をやらせたのは誰ですか。婆ちゃんなら絶対にやらせません。学校の授業は自分勝手に拒否することができません。仮病をつかって、欠席する位しか逃げ道が無いのです。その授業で、ワタル君にピラミッドの下の段になることを命じたのは誰だ!!そいつが全て悪い。もしも、うちの孫たちがそんな目にあわされたら絶対に許さない!」婆ちゃんの顔は怒りに燃えて、声も震えていた。タケシ君もコウ君も剣幕に押されて思わず手を握り合っていた。

 

 

 

「子供が骨折という重傷を負わされた。これは立派な事件です。学校だから特別に扱うという法律はありません。国の法に従って、警察に通報し、加害者、被害者、原因を特定し、その後司法判断に委ねるべきです。学校組織ではよく”いじめ”という言葉で刑事事件をうやむやにしてしまう傾向がありますが、社会もこれを”見て見ぬふり”をする悪い習慣があります。”いじめ”という悪質で陰湿な暴力にあって命を落とした、何人もの子供たちの無念を思うと悔しくてなりません。”学校の授業中に生徒が重傷を負う事故が発生した” これは道徳の問題ではありません。ただちに、警察と救急が対応すべき”事件”です」

婆ちゃんは大きく息を吸ってやっと話を終わらせた。そして悲しそうな顔をした。

「生徒たちに悪かったとか、失敗したとかいう子は一人もいませんね。みんな一生懸命頑張って練習をしていました。それでも、誰かに責任があると考えたタケシ君のクラスって、何か間違っていませんか。生徒たちには責任なんてありませんよね。こんなピラミッドを作る時は、体がしっかりして、是非やりたいと希望して、そのうえ組体操が好きという生徒だけを集めて、体育教育者として正しい訓練を収めた先生が数人で補助しながら、注意深く指導しながらやるべきです。体の弱い生徒や、恐ろしくてできない生徒にも無理矢理やらせれば、事故が起きるのは当たり前です。・・・タケシ君、婆ちゃんはそう思ったんだけど、古くさい考えかな?」

タケシ君は考えた。婆ちゃんの言う通りだと思う。絶対に正しいと思う。それでも、学校で婆ちゃんの言った通りに、みんなに言えるかどうか心配になった。

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